torkuutのオリジナルクッキー缶ができるまで ー前編ーの続きです。
前編では、活版印刷のデザイン本から引っ張ってきた、オシャなデザインをクッキー缶に使わせてもらおうと考えたところまで。
ようやくオリジナルクッキー缶が完成か!と思いきや、やはり一筋縄ではいかず・・。
原画をスキャンしたデータだと、画像が粗いので上手く製版できないかも、との返事が。特に、小さな文字は潰れてしまう可能性があるとのこと。
何度かデータを修正してやり取りしたものの、やはり難しそう。それなら原画を直接送るか?とも考えたのですが、わりと大きな本に貼り付けてある図案なので、送るとなると、原画を本から剥がさないといけません。うーん、それはしたくない。
かといって、こんなでかい本(+限定本なので、まぁまぁ高価)をそのまま送られても、先方も扱いに困るし迷惑だろう。どーしよかなー。。東京まで持参するといっても、コロナで移動もままならないし。
やはり、原画をページから剥がして送るしかないか?とよほど考えましたが、この頃には、そこまでしてこのデザインに拘る気持ちも薄れていました。「是が非でも!」と思えば、それなりにやり方はあるけど、根底に「オリジナルで作りたいと言いつつ、デザインは借り物で良いのかな?」と、小さな違和感が残っていたのですね。
てわけで、またもや振り出しに戻りました。
話が少し前後しますが、初期構想段階では、メインで販売するクッキー缶のサイズは現在の大きさではなく、一回り小さなプティ缶サイズにする予定でした。なおかつ全面フルカラーにするつもりで、作家さんへの依頼もその条件を前提にしていました。
ただ、オリジナルで全面フルカラーを大手缶メーカーに注文するとなると、最低ロット3000個+製版代別途30万って世界で。トータル100万超の仕事です。最初は「それでもやりたい、フルカラーじゃないと作家さんの持ち味が出せない!」と思ってましたが、希望の作家さんにお願いできない→フルカラーにこだわる必要性がないな、となり、一色印刷でも良いやと。
もちろん、価格面も考慮しての判断で、一色印刷なら価格も抑えられます。
そんな中、改めて缶メーカーを探している時に見つけたのが修芸社さんでした。
デザイン案が二転三転するうちに「気は進まないけど、もう、ここまで来たら自分でデザインするのが一番手っ取り早い気がする。。」と考え始めていました。
製品に関わるデザインをプロにお願いするつもりだったのは、素人っぽさ、アマチュア感を出さずに、きちんとした商品に仕立てるにはプロの力が欠かせないという思いが強かったから。しかし、現実問題、頼みたい作家さんは難しくて、好みのデザインを見つけたと思ったら製版ができず、そもそも借り物。
それなら、多少拙さはあっても、自分でやるのが早いし安上がりだな。と、ようやくここにきて『自分でデザインする』という道筋にルート変更しました。
自分でといっても、たとえば、作家さんのイメージを下敷きにしてしまうと、それこそ真似っこ、パクリになってしまいます。
真似は必ず劣化するので、もう、方向性からガラッと変えた方が良いよな?
自分は、できれば何もせずにゴロゴロしていたい性格だから(親からは『のび太』をもじって『のび子』だと言われていた)、ナマケモノをキャラクターとして描くのはどうだろう?と、いくつかスケッチしてみたり、案を考えてみたり。
でも、動物キャラのカワイイ系パッケージは割とメジャーだし、他と差別化しにくいかな?やっぱりキャラものは難しいかも。
とは言え、一枚絵のようなデザインは、よりセンスが問われるし。そもそも、明確なコンセプトがないから余計に難しい。
トルクート=昼寝する月だから、ストレートに月を描こうか?どんな月?
缶いっぱいにデザインするのは難しいけど、缶の中央に、小さな額に飾られた絵が描いてある・・くらいのサイズ感なら、どうにかできるかも?
しかし、フリーハンドで描けるほどのセンスはない。
この時、プティ缶でカラー印刷するなら・・と考えていた案を思い出しました。
作家さんに頼むのが無理となってからも、一度は自分でカラー缶をデザインしようと考えていて、具体的には編み物で絵を描くつもりでした。
修芸社さんでは、既製品の蓋のみカラー印刷も可能なので、フェアアイルセーターのような多彩な編み込み柄でデザインしたら、面白い缶ができるかもしれない。実際に、三國万里子さんの編み物グッズの商品展開にも編み図柄をプリントした缶が販売されてたので、そのイメージもあって。
そのための図案も考えて「フェアアイルといえば、本場のシェットランドスピンドリフトでしょう!」とイギリスの毛糸メーカーにも注文して。毛糸が届いたら編むぞー!と意気込んでいました。
が、これまたすんなりいかず。
工房の工事と並行して、毛糸メーカーに発注したのが二月末。全種揃い次第、三月中には発送できる予定です、と返信はあったものの、待てど暮らせど届きません。結局、届いたのは半年ほど経った夏頃のことでした。
同時期に、改めてプティ缶の蓋のみカラー印刷の価格を聞くと、自分の予想額を上回っていたのもあり「もうカラー印刷はすっぱり諦めよ。。」となりました(計画性のなさ)。届いた毛糸は、またセーター編むのに使います。。
前置きが長くなりましたが、編み図というのは、一目をドット(方眼)一マスで表すことが多く、カラーバージョンの編み図もマス目を塗り潰す感覚で描いていました。
私は、フリーハンドで何でもありよー!というより、ドットなどの制約がある方がデザインしやすいので「カラーじゃないにしても、編み図を考える要領で、ドット絵のデザインを缶に落とし込んでみようかな」と思いついたところが最終地点。
読むだけでも疲れると思いますが、本当~に、ここまでが長かったです。はた目には、何も考えてない、何も進んでないように見えてたはずですが、自分内ではアレヤコレヤと忙しくしてました^^;
で、1mm方眼のポスタルコのノートに、チマチマと案を描く日々が始まりました。
何度も下描き、修正、本描きを繰り返しながら、どうにか手描きの原画が完成!
編み込み柄の模様を飾り枠みたいにして、中央には、花の咲く野原と、空には星と月が浮かぶ絵が額装されているイメージで。店の名前も主張し過ぎないように入れました。
動物や人のようなキャラがいる方が、親しみやすさや可愛さはあるだろうけど、方向性をガラっと変えるのであれば、一枚絵としても成立するような、そして、国や性別も関係ない感じにしたかった。カワイイに寄りすぎると、男性にはピンとこないかもしれないし。
クッキー缶を選ぶのはほぼ女性なので、購買層にアピールするデザインは、正統派クラシック、シンプルにオシャレ、カワイイキャラ系(ファンシーに寄り過ぎない程度の)が強いだろうとは思いますし、私もそういうテイストは好きです。
でも、他と似たようなデザインを今から出したとしても、差別化しにくい。手作りクッキー=ホンワカ癒し、ナチュラル系に偏りそうなところを、一昔前のゲームっぽいドット絵テイストでデザインするのも面白いかな~と。自分的には、ゲームというより編み図が元ネタではありますが、がっつりマリオ世代なので、やはりあの時代のデザイン性の高さ、今見ても古く見えない完成度、秀逸さは、深い部分で脳裏に刻まれてる気がします。
そんなこんなで、ようやくデザイン案ができたので、修芸社さんへ原画を送りました。
が、ここでも一つ問題が。ポスタルコのノートの方眼罫線は薄い水色で、印刷に出にくい色だから大丈夫かなと思っていたのですが、どうやっても製版の際に干渉してしまうとのこと。水色だから印刷には写らないだろうし、向こうはプロだからどうとでもなるでしょう・・と気楽に考えてたけど、無理なものは無理でした。
でも、方眼がない紙にトレースするとか難易度高すぎる。手描き特有の揺れが表現できればと、あえての手描きにこだわったけど、いっそエクセルで描き直すか・・と試しにやってみたら、まぁ早い。そしてキレイ。
何時間も費やして描いた原画とは比較にならないほど一瞬で、しかも美しい仕上がり。文明の利器よ。。と感動しながら、エクセルデータをメールに添付して送りました。確認していただき「これなら製版ができます」との返信があり。ようやく、整版段階はクリア。
次は、何色で印刷するかを決めなくてはいけません。
ここまでのメールのやり取りだけでも、かなり時間がかかっていたので、色の選択をメールで進めるとなると、更に何ヶ月かかるか分からない!!パソコン画面上で色を決めるのも難しいだろうし、直接打ち合わせしませんか?とお願いして、2021年10月末、ようやく修芸社さんのショールームにお邪魔したのでした。
修芸社(インスタアカウント→@cancanaworker)さんと、初めてインスタでやり取りしたのは、 2020年の8月。製菓衛生師試験に合格してから間もない頃でした。そこから考えると一年以上経っての、ようやくの対面となりました。よくここまで付き合ってもらえたものだわ・・。
打ち合わせでは、その場で色を決めるぞ!と決心していて、何色か候補もあるし、そこまで時間はかからないだろうと思っていましたが、ショールームで他の缶を見ると「あー、この色もいいですね!」「このデザイン素敵!」「あ、このクッキー缶、買ったことあります」「こちらも捨てがたい。。」と楽しくなっちゃって。
参考までにと、イギリスから届いた毛糸の中から「こんな色が候補です」と事前に十色ほど送っていたので、色見本ほどでないにしろ、ガイドとしては役立ってくれました。
キラキラ系や、青、橙、などの候補はありましたが、 最終的には、デザイナーでもある津田代表が「こんな色も合うと思いますよ」とおススメしてくださった、アイボリーの缶にオリーブグリーンの組み合わせに決めました。ロットごとに色変更もできるので、まず初回はこれにします、とラフな決め方でも良かったのは助かりました。それこそ、3000個を一括納品でとなると、もっと悩んだかもしれませんが、修芸社さんの印刷あり最低ロット数は120個なので、まずはこの色でやってみよう!と思えたというか。
そこから一週間後にはサンプルを送ってくださり、これでようやく。。!と思ったら、ここにもトラップが。
届いたサンプルのデザインが、原画と比較すると微妙に縦横比が違っているのです。
全体的にぺちゃんこに潰れているような。。何でだろう?勝手にデータの修正をするとは考えにくいし・・と思いつつ確認すると、私が送ったエクセルデータを出力する過程で、なぜかサイズの変換が起きてしまったらしい。
データならどこでどう出しても一緒だろうと考えていましたが、どうやら違ったみたいです。
そもそも、イラストレーターなどの専用ソフトではなく、エクセルでデザインする人はほぼいないので盲点だったようで。それなら、打ち合わせの時に印刷して持参してた原画を渡しておけばよかったーと思ったけど後の祭りです。
そこから、再度原画を送って、それを元に整版してもらいました。そこでは、もうサンプルも作らず、量産にGOサイン!
そうして、ようやく。。!
本当に、やっとできたのが、このオリジナル缶です。
めちゃくちゃ長くなってしまいましたが、大体の流れはこんなところです。これでも、まだはしょってるエピソードがありますからね。。
最初に書いたように、オリジナルクッキー缶を作りたいと考えたのは好きな作家さんがキッカケでしたが、最終的には、最初から最後まで自分でデザインした、本当の意味でのオリジナルクッキー缶ができたので、まぁ、終わりよければ全てよし。。となったかな?
もちろん、憧れの作家さんにお願いできてたら、どんな素敵なクッキー缶だったかしら・・と考えると「それも見たかったー!」と思いますが、まずはここまで辿り着けたことを素直に喜びたいです。
話があちこちいって分かりづらい部分も多かったかもしれませんm(__)m
簡単にまとめると
<デザインが決まるまで>
作家さんに頼む→玉砕
従妹に頼もうとする→似た路線をなぞってしまうのは、両方にとって失礼だからやめよう
自分で編み図デザインして、毛糸で編んでカラー印刷する→毛糸が届かない&カラー印刷の価格が高いので中止
古本で見つけたデザイン→整版できない&借り物のデザインになるのでやめる
再び自分でどうにかしようと考える→キャラものは難しい
カラーではなく一色刷りで、編み図を参考にしたドット絵のデザインはどうだろう?→ここでようやくデザインの方向性が決まる
<デザインが決まってから>
手描き原画を送る→方眼の罫線が邪魔で製版できない
エクセルデータに置き換えてメールで送る→これなら整版できる。一歩前進!
色を決めるために上京。
サンプルできる→デザインが潰れてるのでやり直し。
原画を送り直す→ようやく完成!
ここまで、粘り強く付き合ってくださった修芸社さまには、本当に感謝しかありません。
「オリジナルクッキー缶を作りたいです」と、インスタのDMを送った時点では工房すらなかった個人相手に、これほど親切に対応していただけるとは思っていませんでした。おかげで、心強かったし、絶対に作れる!と信じることができました。サンプルの依頼や少量の注文に対して迅速に対応してくださるだけでなく、きめ細かな心配りには「私もこうありたいな~」と勉強させていただく面も多かったです。
打ち合わせで上京した際には、近隣のパティスリーに連れて行ってくださったり、興味深いお話を沢山聞かせていただきました。
そんな修芸社さんと二人三脚?で作ったオリジナル缶は、一つひとつ、職人さんの手によってシルクスクリーンで刷られています。
だから、インクが載っている部分は少し盛り上がっていて手触りも格別。モノとしての存在感が、とっても良い!
今後も、印刷ロットごとに缶の色やインクの色を変えて遊びたいなーと妄想しています。
初版はオリーブグリーンでしたが、今後もいろんなバージョンが出る予定なので、その辺もふんわり楽しみにしてくださると嬉しいです。
あー、本当に、めちゃくちゃ長くなってしまいました。ここまで読んでくださった方にお礼申し上げますm(__)m
ありがとうございました!
2021年最後のブログ更新になるので総括すると、今年は自分にとって、小さいけど確実に一歩を進めた年だなと実感しています。
二年ほど続くコロナ禍によって、それまでの日常生活とは暮らし方が変わった部分も多かったけど、私に限って言えば、逆にコロナがあったからこそ、一旦歩みを止めて、じっくりと今後の展開を考える機会を貰ったとも言えます。
来年は、本格的に展開していけるように、体調を整えて健康的に(たまに息抜きしつつ)働けたら良いなぁ。
心身共に健やかであることが何よりも大事だと考えているし、健康を害してまでやらなきゃいけない仕事はないですよね。
仕事への取り組み方は人それぞれでしょうから、あくまでも自分はそう考える、というだけですが。
皆様にとって、2022年が少しでも明るい年でありますように。
よいお年を~^^
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